Portisheadが2011年に出したシングル「Chase The Tear」がいきなりクラウト・ロックになってたので、Portisheadの『Third』の次のアルバムがBeak>の1stを踏まえた感じになって、それでBeak>はGeoff Barrowのアルバム1枚だけのサイド・プロジェクトで終わるのかも、とか思ってたら全然普通に新作でました。このクラウト・ロックな作風はこれはこれで今後もBeak>のほうでやるってことなのかな。それはさておき、退廃的なクールなムードとタイトなのにゆるっとしたちょうど良い感じのトリップ感が絶妙で、インディー・バンドがクラウト・ロックをちょっと取り入れてみました、な感じとは違うさすがな渋みがあって素敵でした。
この後に出したアルバム『These Walls Of Mine』のほうが色々と多方向から攻めてて非常に意欲的な作品だったとは思いますが、クラシック路線だけでなくうたものフォーク路線のPeter Broderickも好きな身からすると、そのうたものの作風が美しく華開いたこちらのアルバムのほうが好きでした。オーケストラ・アレンジがお手物の人が作った艶やかなうたものポップ・アルバム。作曲家、アレンジャー、プロデューサー、そしてヴォーカリストとしても彼の才能が発揮されている素敵盤。やはりポスト・クラシカルな彼の方が人気があるので、クラシック路線のアルバムに比べると(当店での)セールスはそれほど芳しいものではなかったのですが、サウンドのトータル的な完成度はクラシック路線の作品も含めて今作が一番だと個人的には思います。
今年はテクノ〜ハウス系だとDaphni、Silent Servant、Voices From The Lake、Taragana Pyjarama、Fingers In The Noise、Moritz Von Oswald Trioあたりも愛聴してました。セレクトした日の気分みたいのもありますので、日を変えてセレクトしたらどれか選に入っていたかもしれません。彼らを外してヴィラロボスを選ぶのって何か当然すぎるというか当たり前すぎるかなとかも思ったんですが、だからといってカッコつけて(?)外すというのも変な話なので。ミニマルな反復のサウンドの中にダンサブルなグルーヴ感・躍動感があるのと同時に、じっくりと深く聴けば聴くほど見えて来る緻密な音の構築力の圧倒的な凄さがありました。それでいてそれが頭でっかちなんじゃなくて普通にガンガン踊らせちゃう音になっているんだから、やっぱ文句無しに凄い人です。
bvdubのアルバム全部、別名義のEarth House HoldとEast Of Oceansのデビュー作、とBrock Van Weyが2012年に出したアルバムすべてが当店の年間売り上げベスト50にランクイン。ここ数年出しまくり状態ですが、すべてが高水準なアルバム&売れ行きも好調でお店からすると非常に安定している本当にありがたい御方です。比較的それほど各アルバムでサウンドの差異はなく、それでいて1年でのアルバムのリリースも多いので、ここ数年彼のアルバムを年間ベスト選に選ぶとなるとどれを選んでいいのか分からないといったところだったのですが、今年はn5MDからリリースされたこのアルバム内の1曲が非常に際立った出来だったので1枚選ぶことが出来ました。前述の別名義も含めた全アルバムどれも素晴らしかったのですが、今作収録の30分以上に渡るロング・トラック「Today He Felt Life」が、10枚以上のアルバムを出してきたbvdubのベスト・トラックがここに来て出てきたって感じで、リリースがハイペースになった2010年以降の彼の軌跡がこの曲で結晶化されたような感動を覚えました。ちょっとさすがにオーバーワークな気もしますが、来年もどれだけ色々出してくれるか楽しみです。
Tri Angleは昨年Balam Acabの素晴らしいアルバムをリリースしましたが、今年はこのHoly OtherやVesselのアルバム、oOoOOのEPなど今年も良作をリリースしました(流通事情が芳しくなく、後述の2枚は依然として入荷出来ていませんが...)。幽玄的なウィッチ・ハウスにちょっとR&B〜トリップホップ的な渋みも盛り込んでいて、デリケートな儚さとスモーキーな霞んだ渋みがマッチしたメランコリックな音像が素晴らしかったです。同じようにR&Bなテイストを取り入れてインディー〜チル・ウェイブ〜エレクトロ〜ウィッチハウスなサウンドに昇華している、元レーベルメイトのHow To Dress Wellの新作も素敵でしたが、Holy Otherの緩めの幻想的な世界のほうが個人的には好みでした。
2011年作の『Passed Me By』、『We Stay Together』の2枚(後に2枚セットにしたCDもリリース)の傑作のリリースを経て届けられた新作アルバム。『Passed Me By』『We Stay Together』のズブズブの深みのある独創的なダブ・テクノから発展した、このウィッチ・ハウス的な幻想的〜幽玄的な要素と、ムーディーな艶やかさ、さらにサイケ〜インダストリアル〜ダーク・アンビエントなどの暗黒でドラッギーな空気が混ざり合ったサウンドの独特の世界が素晴らしかったです。エクスペリメンタルなドープ&ディープな魅力はそのままに、不穏な陰りや不安感のあるアブストラクトな実験性だけではなく、踊りながら別世界にトリップさせるようなダンス・ミュージックとしての気持ち良さもありました。色んな枠から逸脱したエレクトロニック・ミュージック/ダンス・ミュージック作品の中でもトータルでもろもろ傑出していたアルバムだったと思います。いい加減しつこいですが、『Passed Me By』『We Stay Together』も一緒に地下鉄に乗っている時によく聴いてます。聴いてる時、非常灯だけ残して電車内の電気を消して真っ暗にして欲しいとさえ思うくらいです。
同じCarparkから1年前に出た、2011年作のアルバムはジャングリーでローファイなインディー・ポップ〜ガレージ・ポップといった趣だったのに、1年後の本年度にリリースされた今作で突然鋭く尖ったエモ〜ポストコア〜グランジ〜オルタナなサウンドへと変化。夏休みにアルビニ先輩のところにちょくちょく顔を出してたあの子が、夏休みが終わって2学期になったらちょっとワルっぽくなっちゃった、って感じでしょうか。元々ガチャガチャとしたギターの疾走系のタイプの曲もやってましたが、キャッチーでポップな疾走感だったソレが、ここでは荒々しい衝動で前にあるものをなぎ倒してでも進まないといけないといったような切羽詰まった焦燥感に。ザラついた粗いギター・サウンドと、フックの効いたメロディを力強い勢いを持って叫び上げるうたが、抑えきれない衝動とほとばしる蒼いエネルギーと共に放射されるギター・ロックに素直に打ち抜かれました。ちょっと初期のTrail Of Deadを思わせる雰囲気もあり、こういうササクレだった音のバンドがやっぱ好きだと再認識した次第です。
これまで年間ベストの1位を考えるとき、自分にとってその年の1番だった1曲が何だったかを考えて、それでその曲の入っているアルバムが結果的に1番になるってパターンが多かったです。途中まで今年の1位はAndy Stottかなとも思ってたのですが、今年自分にとって一番圧倒的だった曲を思い浮かべると今作の1曲目「Mladic」が即座に浮かび、やはりその曲を何度聴いても初聴と同じように興奮してくるといったところで、トータルで考えると今年の1枚はGodspeed You! Black Emperorかなと。「Mladic」は旧曲名「Albanian」、「We Drift Like Worried Fire」は旧曲名「Gamelan」で活動休止以前からライヴでは頻繁にプレイされていた曲であり、アルバムの肝となる楽曲自体は何年も前から披露されていた楽曲ではあるので、今作を純粋なる新作アルバムとするか、またドローンの2曲はインタールード的なトラックで、実質は2曲のアルバムではなく『Slow Riot For New Zero Kanada E.P.』と同じようなEPと見なすかで多少今作に対する見方も変わってきそうですが、そんな考えも差し引いてもやはり今作収録の20分に渡るこの2曲の楽曲は圧倒的でした。いくつもの「ポストロック」バンドが彼らからの影響を踏まえた上で、彼らのその上、その先を目指し、辿り着こうと試みたけれど辿り着けなかった地点に辿り着けているのは、やはり本家だけでした。10年振りに彼らが新たなアルバムを届けてくれたといったことが、今年の当店にとっても、ひとりのリスナーとしての自分にとっても、とても重要な出来事でした。GY!BEからまた次のアルバムが届くそのときまで、当店もどうにか生き残りたいと思います。